がんの告知を受けて、あるいはがんの経過中に気分が落ち込んでしまうことは珍しいことではありません。がんの患者さんは15~25%にうつ病を発症するといわれています。今回は、がんとうつ病の関係と心のケア方法について、詳しくご紹介していきます。

 

最初はだれもが不安

通常、がんを知らされた患者さんは、衝撃段階、不安定段階、適応段階という3段階の心理の変化を経験します。

衝撃段階

告知後はショックで頭が真っ白になり、「もう終わりだ」「自分はがんで死ぬ」という絶望感に襲われます。その後、「まさか自分ががんのはずがない」「検査結果に間違いわないのか」と認めたくない気持ちが強くなります。「嘘をつくな」と診察室で怒りを露わにする方もいます。これは大きな衝撃から自身の心を守ろうと働く防御反応の1つであり、至って正常な反応です。一般的に、告知後2,3日から1週間程度続きます。

不安定段階

患者さんががんを受入れ始める段階です。一時的にうつ病に似た症状が現れ、混乱や不安、恐怖、悲しみ、絶望感などの感情の変化に加え、不安や食欲不振、集中力の低下、めまい、動悸、性機能障害などさまざまな症状を伴います。強い落ち込みの中で「どうして自分だけこんな目に遭わなければならないのか」「自分が何を悪いことをしたというのか」という怒りや、「食生活が悪かったのかもしれない」「あんなにストレスを抱えながら仕事しなければよかった」と自分自身を責めてしまう人もいます。

適応段階

上記の症状は、通常1~2週間程度で軽減し、その後現実の問題を直視できるようになり、「つらいけれど何とか治療を受けていこう」「なってしまったものはもう仕方がない、これからのことを考えていこう」と前向きな気持ちになって、情報を整理できるようになります。

 

適応障害とうつ病

2週間経っても強い気分の落ち込みが持続する場合、適応障害やうつ病を発症していると考えられます。

適応障害

強い不安と抑うつ気分から仕事や人間関係に支障をきたしている状態です。不安のために眠れなかったり、仕事が手に付かなかったり、人と会う苦痛から家に引きこもってしまうこともあります。うつ病の診断基準は満たさないものの、軽いうつ病と表現されることもあります。

うつ病

適応障害よりもさらに抑うつ傾向が強く、何も手につかないことから日常生活が困難になっている状態です。一日中気分が沈み、何に対してもやる気が出ない一方で、その状況に焦ってイライラし、自分を責めてしまいます。

 

うつ病の診断基準

下記症状を5つ以上同時に満たし、2週間以上持続している

抑うつ気分

抑うつ気分とは、暗く憂鬱な気分のことです。1日の大半が抑うつ気分に支配され、気分転換でも改善せずに何日も続きます。

興味・喜びの低下

何もする気に鳴れず、今までの生活では楽しかったことに対してもつまらなく感じます。具体例として、化粧をしなくなった、外に出るのを嫌がるようになったなどの行動変化がみられます。

食欲低下

何も食べたくない、食べても吐き気を感じるなど、食事に対する意欲が低下する結果、体重は減少していきます。

睡眠障害

眠れない、すぐに目が覚めてしまうという不眠、あるいは寝てばかりいる過眠のどちらもみられます。

精神運動抑制または焦燥

制止とは精神反応が鈍くなり、動作が緩慢になることで、焦燥はイライラして落ち着かないことです。

倦怠感・意欲低下

身体がだるく、疲れやすくなり、物事が億劫になります。

思考力・集中力の減退

頭にもやがかかった状態が続き、日常生活の小さな事であっても迷ってしまい、決断力が鈍ります。

罪責感・無価値観

自分は役立たずでだめな人間だ、自分のせいで周りに迷惑をかけていると思い詰め、自分自身を責めてしまいます。

希死念慮

いっそ死んでしまいたいと思い詰め(希死念慮)、実際に自殺を企てることもあります(自殺企図)。

 

がん患者のうつ病の原因

うつ病を発症する時期は告知に限ったものではありません。抗がん剤の副作用として、薬が脳内の神経伝達物質に作用し、気分を司る神経に影響を与えることで、不安や抑うつを引き起こすことがあります。また、治療中に生じるさまざまなストレスが原因となることもあります。がん治療の患者にみられるストレスは、身体的苦痛、心理的危機、喪失体験の大きく3つに分類されます。

身体的苦痛

がんそのものによる痛みや呼吸困難感などに加え、抗がん剤の副作用として起こる倦怠感や吐き気などが挙げられます。また、脱毛や爪の変形など、容姿に関する変化が身体的苦痛となることもあります。

心理的危機

がんは治療によって必ず軽快するわけではありません。再発や転移などの病状の進行や、治療の中断は、死への恐怖へとつながる心理的危機となります。

喪失体験

療養中に身体機能が低下することで、仕事や家庭、地域社会での役割が果たせなくなると、大きな喪失感を経験します。

 

うつ病へのアプローチ

身体症状の緩和

痛みや全身倦怠感、吐き気など、不安や抑うつ気分の原因の主体が明らかであれば、これらの症状を緩和させるための治療によって、抑うつ状態の改善が見込めます。患者さんが意識できていなくても、身体症状がうつ病の背景となっていることもあるため、症状を認める際は積極的な緩和が求められます。

精神科的治療

適応障害やうつ病は、甘えや心の弱さなどではなく、れっきとした病気で、治療薬もあります。治療は、抗不安薬や抗うつ薬、睡眠薬などの薬物療法が中心となります。精神科での治療となると「自分はがんであって、心の病気ではない」「精神科にかかるほどはない」「今はまだ我慢できる」と抵抗を覚える方もいるかもしれません。しかし、心のケアは早期に行うほど、治りやすく、その結果、がんの治療に対しても前向きになれます。

 

日常生活でのセルフケア

自分の気持ちを言葉にする

ストレスを緩和する上で、自分の気持ちをそのまま表現することはとても大切です。生活の中でいらだつような場面を想像してみてください。

多くの方はその場で怒鳴ったり、逃げ出したりせずに、感情をぐっと押し殺して、我慢して、その場をやり過ごすはずです。しかし、この感情は、表現されない限り何度でも頭の中をかけ巡り、くり返し思い出しては自分自身にストレスをかけ続けます。

そして、言葉にする時は、冷静に淡々と事実を並べるのではなく、怒りや恐怖を感じたままに言葉にすることで、溜め込んだ感情がほぐれ、鎮まっていきます。溜め込んだ感情はいずれ爆発します。ささいなことに激怒する人を見たことはありませんか?

その人は長年の怒りを封じ込め、心の容量が限界を迎えてしまったのです。

患者さんやその家族が不安や恐怖を感じるのは当たり前のことです。その感情を溜め込んで、いつかそれを大切な人にぶつけてしまわないように、つらい思いは言語化し、定期的に開放することが大切です。

 

リラックス

がんは深刻な恐怖と緊張を与えます。不安がひどくなれば十分な睡眠がとれなくなり、身体が消耗していく結果、病気と闘うための活力まで奪われてしまいます。精神的な不安に打ち克つため、病気と闘うための気力を維持するためには、自分に合うリラックス方法を見つけることが大切です。

リラクセーション

少なくとも1日1回、10分から20分間、静かなところで目を閉じて、深くリラックスします。そこで、海辺や山の小川など、心が和むような風景の中に立つ自分を想像します。日差しの暖かさを味わいせせらぎに耳を傾け、その情景に全身で浸るようイメージします。

ぬるめのお風呂や足湯に浸かる

お風呂や足湯は少しぬるい方がリラックス効果があるとされています。熱いお風呂では神経が刺激されることで真逆の効果になってしまい、また必要以上に体力が奪われてしまうことにもつながります。

 

質の良い睡眠

がんでは睡眠に関する問題が付き物です。眠れない、寝た気がしないという直接的な睡眠障害や、疲れやすくなった、休んだつもりなのに身体がだるいなど睡眠障害に引き続いてさまざまな症状がみられることもあります。質の良い睡眠を得るためには、下記の点に注意を向けてみましょう。

朝起きたら、光を浴びる

光には脳から分泌されているメラトニンというホルモンを止める働きがあります。メラトニンは、夜間に分泌されるホルモンで、神経に働きかけて身体の余計な興奮を抑え、睡眠を促しています。このホルモンの分泌を止めることで、身体の睡眠・覚醒リズムが形成されます。

必要以上に横にならない

ベッドで過ごす時間が長いと、熟睡感が減るといわれています。睡眠時間にこだわって、眠気のない早い時間からベッドに入ると、なかなか眠ることができず、さらにこれを繰り返すうちに布団に入ることと寝られないことが条件付けされてしまいます。なかなか眠れないことにプレッシャーを感じると余計に脳が覚醒してしまい、悪循環に陥っていきます。

疲れたから横になる、眠いから横になるという基本を忘れずに、起きている間は身体に負担をかけない程度に身体を起こしておくことが大切です。

就寝前のカフェインやアルコールは控える

コーヒーや紅茶、濃いお茶などに含まれるカフェインは身体にとって刺激物となり、神経を興奮させて眠りから遠ざけます。また、寝酒や深酒は寝つきが浅くなったり、眠りが浅くなることで、質の悪い睡眠をもたらします。

 

軽い運動

運動と健康の関わりについて行われた研究では、がんによる死亡率が最も高いのは筋肉をほとんど動かさない職種の人であり、逆に最も低いのは筋肉をよく使う肉体労働者だと報告されています。運動はホルモンの乱れを整え、気分を落ち着かせ、ストレスをリセットさせる作用があるのです。

無理な運動は必要なく、心と身体の緊張をほぐし、自分が気持ちいいと感じられるくらいの運動がちょうどよく、また適度な疲れは質の良い睡眠をもたらします。

 

レクリエーション

1日に1時間ほど、楽しいことだけをする時間を設けましょう。内容はスポーツでもトランプでも映画でもなんでも構いません。遊ぶということは自分勝手に振る舞うことではありません。自分で自分を楽しませることができる、つまり自分で自分を世話できるということを自覚することは、よりよい治療へとつながります。

 

がんの告知を受けて、あるいはがんの経過中に不安や恐怖に襲われるのは一般的なことです。心が弱いからと自分を責めずに、しっかりと向き合うことが大切です。命のこと、仕事のこと、家族のこと、副作用のこと、がんにはさまざまな不安が生まれます。

自分が何を心配しているのか、何がつらいのか、それを明確にすることで、その不安に対する治療が行えるようになるのです。何が不安なのか分からない、分からないけどとても怖い、そんなときは、まずその感情を言葉にすることから始めましょう。

補完代替医療という選択肢を

がん治療における身体症状・精神症状の負担を減らしたり、再発防止やがん予防に。
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