抗がん剤の副作用にはどのようなものが思い浮かぶでしょうか。最もイメージされやすいのは脱毛かもしれません。しかし、抗がん剤では見た目の変化だけでなく、身体の至るところに影響が及び、非常に多彩な副作用を示します。ここでは、抗がん剤に広くみられる副作用の症状とそれらの症状が出現する時期について、詳しくご紹介していきます。

投与日

吐き気・嘔吐

抗がん剤の副作用として最も広くみられる症状です。抗がん剤が脳の神経に作用し、直接嘔吐中枢を刺激することで引き起こされる、あるいは小腸から分泌されるセロトニン量が増えることで間接的に嘔吐中枢を刺激すると考えられています。患者さんが最も苦痛に感じる症状の1つであり、その個人差が大きいことから、精神的な要因もかなりの割合で関係しているともいわれています。
吐き気・嘔吐は投与直後に生じる急性のものと、投与から24時間以降に生じる遅発性もの、これまでの治療の経験から抗がん薬の投与を始めると思うと生じる予期性のものの3種類に分類されます。この3つを比較すると、遅発性の吐き気・嘔吐は症状が強く出やすいといわれています。

アレルギー

アレルギーは、体内に侵入した異物に対して免疫機能が過剰に攻撃する結果、自分自身の細胞までも傷つけてしまう状態です。全身に反応が生じるため、その症状は非常に多岐にわたります。皮膚症状としては、かゆみや蕁麻疹、発赤などがみられます。

呼吸器症状としては、せきやくしゃみ、鼻水、のどの違和感から始まり、重症化すると呼吸困難感を認めます。消化器症状としては、吐き気や嘔吐、腹痛、下痢などがみられます。アレルギー症状は、体内にアレルゲンが存在する限り進行し続けるため、抗がん剤を中断する必要があります。アレルギーは複数持っていることが多いため、以前アレルギー症状を認めたことがある場合は、特に注意が必要です。

アレルギー反応のうち最も恐ろしいのは、アナフィラキシーです。アレルギーが生じている状態では、血液中を流れる免疫細胞が素早く異物のもとへたどり着けるよう、血管の壁が通り抜けやすくなっています。これを血管透過性の亢進といい、その結果、血管内の成分が血管外へと漏れ出てしまうことで、体内を循環する血液量が減少してしまいます。すると、血圧が下がり、血液を全身へ供給できなくなるため、意識障害へとつながります。

数日~1週間

食欲低下

吐き気や嘔吐、便秘、下痢、口内炎などの身体的な症状だけでなく、不眠や不安などの精神的なストレスによっても食欲低下をきたします。食欲低下によって栄養分が不足すると、さらなる便秘や口内炎、倦怠感、立ちくらみなどの原因となり、負のサイクルに陥ってしまいます。

全身倦怠感

疲れやすい、だるい、無気力などの倦怠感が現れます。具体的な例として患者さんは「働きたくない」「買い物に行くのが大変」「お風呂に入るのがつらい」「横になっている時間が増えた」などと訴えます。抗がん剤そのものによる影響に加え、吐き気や下痢、食欲低下などの身体的な要因、あるいは精神的な影響も関係していると考えられています。ある調査では、抗がん薬に伴う職業の変更、休職として75%の人が全身倦怠感を理由としていたという報告があります。

便秘

便秘は3日に1度、あるいは週3回以下の排便と定義されています。抗がん剤の影響が腸の運動を制御している神経まで及ぶと、消化管が動かないことによる便秘が生じます。

この他、吐き気や嘔吐のために食事量や水分摂取量が減少していたり、長期臥床による運動量の低下、精神的なストレスも影響していると考えられています。便秘に伴う症状として、腹部の膨満感や腹痛、嘔吐、口臭、腸閉塞などがみられることがあります。腸が詰まっている状態が続くと、腸壁が穿孔して、腸管内の排泄物や細菌などが腹腔内に漏れ出し、腹部全体にわたる感染をきたすことがあるため、注意が必要です。

1~2週間

口内炎

抗がん剤の作用によって口腔粘膜に障害をきたす、あるいは白血球の減少によって口腔内に感染が生じやすくことにより、口内炎が生じます。口腔粘膜は7~14日の周期で分裂・増殖を繰り返しており、細胞周期が早いために他の細胞と比べると抗がん剤の作用を受けやすいことが知られています。

軽症であれば、しみる感じや痛みに留まりますが、重症の場合は舌や頬が腫れ、潰瘍(深い傷)となって出血することもあります。口内炎をきっかけに食欲低下、脱水などが生じることもあり、適切なケアが必要になります。

下痢

抗がん剤の作用によって副交感神経が刺激を受けると、蠕動運動が亢進し、投与早期に下痢を引き起こすことがあります。また、腸の粘膜が障害を受ける、あるいは白血球の減少によって腸内細菌のバランスが乱れたり、感染が生じるなどの原因からも、遅発性の下痢が生じ得ます。下痢は体力だけでなく大量の水分や電解質、栄養を奪い、最悪の場合致死的となる可能性もあるため、早期からの適切な対処が必要です。

骨髄抑制(白血球、血小板)

抗がん剤の代表的な副作用として、骨髄抑制が知られています。骨髄は赤血球や白血球、血小板などの血球を産生する場所です。赤血球は酸素と結合して全身の臓器へと酸素を届け、白血球は免疫機能を担っており、血小板は止血の際に働いています。骨髄での造血が抑えられてしまうと、赤血球、白血球、血小板が減少し、それぞれ貧血、易感染性、出血傾向をもたらします。

易感染性

白血球の寿命は短く、抗がん剤によって血球の新たな産生が抑制されると、容易に減少してしまいます。白血球が減少することで免疫力が低下し、細菌やウイルスと戦う力が弱くなる結果、感染症にかかりやすくなります。

風邪をひきやすく、かつ重症化しやすくなる他、発熱が増えたり、健康な人はかからないような弱毒菌に感染することもあります。

口や皮膚、尿路、肛門などはもともと病原菌が多く住み着いており、しかし健康であれば免疫力によってその病原性を抑えられています。免疫力が低下した状態では、口内炎や虫歯、発疹、腹痛、下痢、排尿時痛、肛門痛などの症状が現れやすくなります。

出血傾向

血小板の寿命は10日程で、抗がん剤によって白血球と同様に減少してしまいます。

血小板が減少すると、ささいな刺激に対しても出血しやすくなり、また一度出血するとなかなか血が止まらないという出血傾向に陥ります。鼻をかんだだけで鼻血が出たり、歯みがき程度の刺激で歯ぐきから出血するなどのエピソードを認めます。

身体の内側の出血として血便や血尿がみられることもあります。皮下出血の特徴としては、点状の出血斑が生じることが特徴です。程度が強い場合は脳出血や消化管出血をきたすこともあり、最悪の場合命に関わることもあります。

2週間以降

脱毛

毎日毛が伸びることからも分かるように、毛根の細胞は増殖・分裂が活発であり、そのため抗がん剤の影響も強く受けます。抗がん剤の量や種類によってその程度に差があり、毛髪だけでなくまゆ毛や体毛にまで影響が及ぶこともあります。
命に関わる副作用ではありませんが、精神的なダメージが大きく、十分なケアが必要です。ただし、「抗がん剤=脱毛」のイメージが強い方も多いかと思いますが、脱毛は一時的なものであり、治療が終わればまた生えてくることを知っておくと心に余裕が持てるかもしれません。

神経障害

神経障害は中枢神経障害、末梢神経障害、自律神経障害、感覚器障害の4種類に分類されます。
中枢神経障害では、けいれんや意識障害、小脳症状(身体がなめらかに動かない、ふらつく)、言語障害(言葉が出てこない、あるいは逆に入ってこない)、性格変化などが現れることがあります。
末梢神経障害では、指先や足先など末梢の神経に障害が及ぶと、ピリピリとしたしびれが生じます。この他、触覚が鈍くなって手先の細かい作業が難しくなったり、熱い・冷たいなどの温度が分からないために気付かないうちに火傷してしまうこともあります。

自律神経障害では、消化器症状(下痢あるいは便秘)、排尿障害、起立性低血圧(立ちくらみ)などをきたすことがあります。
感覚器障害では、視覚異常、聴覚異常、味覚異常などが生じます。

骨髄抑制(赤血球)

赤血球の寿命は120日と長いため、白血球や血小板と比べるとやや遅れて症状が現れます。

貧血

赤血球の寿命は120日と長いため、白血球や血小板と比べるとやや遅れて症状が現れます。酸素を運ぶ役割をしている赤血球が減少して貧血になると、動悸や息切れ、立ちくらみ、頭痛、疲れやすいなどの症状がみられるようになります。

この他、手足が冷たい、顔が青白い、爪が白い、下まぶたの粘膜が白いなどの症状もみられます。赤血球は全身の臓器に酸素を運ぶという大役を担っており、貧血の状態が続くと全身の低酸素状態から臓器不全が引き起こされるため、軽視できるものではありません。

その他

この他、抗がん剤に一般的な副作用ではありませんが、薬の種類によってはみられることのある副作用をいくつかご紹介します。

視力障害

視力障害は、単純に見えづらくなるだけでなく、見え方にも異常が起こります。

症状として、視界がゆがむ、ぼやける、通常の光でも眩しく感じるなどが挙げられます。この他、目に痛みがあったり、涙や目やにの量が増えることもあります。白内障や緑内障をきたすこともありますが、目の症状はゆっくりと進行し、気付いたときには手遅れになっていることも珍しくなく、注意が必要です。

聴力障害

耳は聴力だけでなく、平衡感覚も担っています。このため、抗がん剤によって耳の神経が障害されると、難聴や耳鳴りなど音に関する障害に加えて、めまいや吐き気が生じることがあります。

肝機能異常

肝臓は身体に必要な栄養素を合成し、蓄え、身体にとって有毒な物質や不要な物質は解毒・排泄する働きがあります。

体内に取り込まれた薬剤の多くは肝臓で代謝を受け、必要な形に変換され、あるいは排泄されます。肝臓がもともと弱かったり、肝臓の処理能力を超える量の薬物を使用すると、負担のかかった肝臓は機能が落ち、正常な働きができなくなってしまいます。症状としては、倦怠感や食欲不振、微熱、むくみ、かゆみ(皮膚には変化がないのに全身がかゆくなる)、黄疸(おうだん:皮膚や白目が黄ばむ)などがみられます。体内に有毒な物質が蓄積すると、脳に悪影響を及ぼして意識障害をきたすこともあります。

腎機能異常

腎臓は血液中の不要な物質をろ過し、尿として排泄させる働きをもつ臓器です。薬剤の中には肝代謝型ではなく腎排泄型をとるものもあります。

同様の理由で腎臓に障害が及ぶと、尿を作れなくなることで尿量が減少し、その分身体に水分が溜まるために体重増加やむくみが生じます。身体に水分が溜まると、その分血液量も増え、それに伴ってポンプの役割をしている心臓にも負担がかかるため、心不全につながることもあります。

性腺機能低下

精巣や卵巣は細胞分裂が活発に行われる臓器の1つです。これらの生殖器が障害を受けると、女性では月経不順や無月経、不妊、男性では無精子症や不妊などの原因になります。また、性ホルモンが減少することで更年期障害と同様の症状が現れ、ほてりやイライラ、不眠、抑うつなどの症状が重なることもあります。

まとめ

抗がん剤の副作用は、薬物そのものの影響に加え、身体の不調や精神的なストレスが原因となることもあります。1つの症状が新たな症状を引き起こし、治療による副作用でありながら、命に関わる事態に陥る可能性もあります。ただし、副作用は治療効果とは比例しません。程度は個人によって異なるため、「副作用が弱いから薬も効いていない」ということにはならないことを覚えておいてください。

補完代替医療という選択肢を

がん治療における身体症状・精神症状の負担を減らしたり、再発防止やがん予防に。
普段の健康維持にも参考になるコンテンツがあります。

がんの代替医療の記事を見る