抗がん剤は大きく分類すると細胞毒性抗がん剤(殺細胞性抗がん剤)と分子標的薬の2種類に分類されます。さらに、細胞毒性抗がん剤はその作用機序により6種類に分けられています。今回は、6種類の細胞毒性抗がん剤と分子標的薬について、作用機序から副作用まで詳しくご紹介していきます。

抗がん剤と細胞周期

抗がん剤を理解する上で最も基本となるのは「細胞周期」です。がん細胞は正常な細胞と同じように、細胞の規則に則って増殖していきます。

G1期

DNAを合成する準備をする段階です。DNA合成に必要なRNAやタンパク質を合成し、DNAを複製するための準備を整えます。

S期

DNAの合成を行う段階です。酵素によってDNAの二重らせん構造を切断し、ほどけた部位からDNAの合成が行われていき、DNAのコピーが作られます。

G2期

細胞分裂の準備をする段階です。DNAはすでに2つ作られており、この2つのDNAが2つの細胞に上手く分かれるために必要なタンパク質が合成されます。

M期

細胞分裂が行われる段階です。細胞が2つに分裂し、その中身が均等になるようにDNAやタンパク質が分割されます。

こうして1つの細胞から2つの細胞が作られ、この周期を繰り返すことで細胞が増殖していきます。抗がん剤はこのような細胞周期が早い細胞に対して、より強い影響を与えることで抗がん作用を示しています。

細胞毒性抗がん剤(殺細胞性抗がん剤)

細胞毒性抗がん剤はアルキル化剤、白金製剤、代謝拮抗薬、抗がん性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害薬、微小管阻害薬の6つの種類に分類されます。

アルキル化剤

アルキル化薬は抗がん剤のうち最も古く開発された薬であり、毒ガスを由来として作られました。その機序はDNAの二重らせん構造に強く結合して異常な構造を作り出し(アルキル化)、DNAを損傷させます。がん細胞が増殖する際、障害を受けた部位のDNAがちぎれることで、がん細胞が死滅します。細胞周期による差は受けず、どの段階の細胞であっても効果を示します。
代表的な薬剤として、エンドキサン(一般名:シクロホスファミド)、アルケラン(一般名:メルファラン)、ダカルバジン(一般名:ダカルバジン)などが挙げられます。
副作用として代表的なものは骨髄抑制です。晩発性副作用(投与直後ではなく治療の経過中に少し遅れて生じる副作用)には性腺機能障害や二次発がんがあります。シクロホスファミドなど一部の薬剤では出血性膀胱炎が生じることもあります。

白金製剤

薬剤の成分に白金(プラチナ)を含んでいることからこの名称がついています。

白金を用いた電極を使用すると大腸菌の増殖力が抑えられることから発見されました。

作用機序はDNA二重らせん構造に結合してDNAを障害し、DNAの合成を阻害することで、がん細胞を死滅させます。細胞周期による差は受けず、どの段階の細胞であっても効果を示します。この過程はアルキル化製剤とほぼ同様であり、アルキル化製剤として分類されることもあります。

代表的な薬剤として、ランダ、ブリプラチン、動注用アイエーコール(いずれも一般名:シスプラチン)、パラプラチン(一般名:カルボプラチン)、エルプラット(一般名・オキサリプラチン)などが挙げられます。
副作用として、シスプラチンでは骨髄抑制や腎障害、吐き気・嘔吐、カルボプラチンでは血小板減少、オキサリプラチンでは末梢神経障害が知られています。

代謝拮抗薬

代謝拮抗薬はS期に作用する抗がん剤です。DNAやRNAの構造に含まれる物質に類似した構造をもつことで、細胞がDNAを合成する際に、誤って代謝拮抗薬を組み込まれ、DNAを障害します。DNAの構造には葉酸、ピリミジン、プリンなどがあり、それぞれに類似した葉酸拮抗薬、ピリミジン拮抗薬、プリン拮抗薬など複数の種類が存在します。

代表的な薬剤として、葉酸拮抗薬のメソトレキセート(一般名:メトトレキサート)、ピリミジン拮抗薬の5-FU、ルナポン(いずれも一般名:フルオロウラシル)、プリン拮抗薬のロイケリン(一般名:メルカプトプリン水和物)などが挙げられます。

副作用として、骨髄抑制、消化器症状(吐き気・嘔吐、下痢、肝障害など)があり、ピリミジン拮抗薬では特徴的な手足症候群(手のひらや足の裏の皮膚が障害を受け、しびれや痛み、発赤、水ぶくれなどが生じる)がみられることがあります。

抗がん性抗生物質

細菌に対して抗生物質が有効であることをヒントに、がん細胞に対しても有効な抗生物質があるという考察の結果開発された抗がん剤です。

種類によって作用機序は異なり、DNA合成期組み込まれてDNAを障害するものや、DNAの合成に必要な酵素を阻害することで抗がん作用を示すもの、強い毒性をもつフリーラジカルを産生してがん細胞を壊すものなどその工程はさまざまです。抗がん性抗生物質はアントラサイクリン系抗がん性抗生物質とその他の抗がん性抗生物質に大別されます。

代表的な薬剤として、アントラサイクリン系抗がん性抗生物質では、アドリアシン(一般名:ドキソルビシン塩酸塩)、イダマイシン(一般名:イダルビシン塩酸塩)、ダウノマイシン(一般名:ダウノルビシン塩酸塩)など、その他の抗がん性抗生物質としてはブレオ(一般名:ブレオマイシン)などが挙げられます。

主な副作用は、骨髄抑制や粘膜障害、脱毛、吐き気・嘔吐などがあります。また、アントラサイクリン系抗がん性抗生物質では心筋傷害、その他の抗がん性抗生物質では肺線維症を起こすことがあり、特に注意が必要です。

トポイソメラーゼ阻害薬

トポイソメラーゼはDNAが複製される際に使用される酵素の1つです。

DNAは2本の鎖がねじれて絡み合う構造をとっていますが、この状態では複製するのが難しいため、一度切ってまっすぐに伸ばす必要があります。このはさみの働きをしているのがトポイソメラーゼです。トポイソメラーゼ阻害薬は、この酵素に結合して働きを阻害することでDNAの複製を不可能にし、がん細胞を死滅させます。

代表的な薬剤としてトポテシン(一般名:イリノテカン塩酸塩水和物)、コスメゲン(一般名:アクチノマイシンD)、この他、上記のアントラサイクリン系抗がん性抗生物質の一部が含まれます。

代表的な副作用として、下痢や白血球減少が知られています。

微小管阻害薬(抗がん性植物アルカロイド)

微小管は細胞分裂の際に使用される細胞内小器官の1つです。1つの細胞が2つに分裂するとき、それぞれの細胞に同量のDNAが正しく分配されるよう、DNAを引き寄せる働きをしています。微小管阻害薬はM期に作用するビンカアルカロイド系微小管阻害薬と、G2期からM期に作用するタキサン系微小管阻害薬に大別されます。

代表的な薬剤として、ビンカアルカロイド系微小管阻害薬ではオンコビン(一般名:ビンクリスチン硫酸塩)、エクザール(一般名:瓶ブラス陳硫酸塩)、タキサン系ではタキソール(一般名:パクリタキセル)、タキソテール(一般名:ドセタキセル水和物)などがあります。

代表的な副作用としては、便秘や末梢神経障害が知られています。

分子標的薬

細胞毒性抗がん剤は細胞周期に障害を与えることで、細胞分裂が活発ながん細胞を死滅させるものであり、がん細胞のみに作用するものではありません。その結果、正常な細胞にも広く作用が及んでしまうことは避けられませんでした。

一方、分子標的薬はがん細胞特有の遺伝子やメカニズムを標的とすることで、正常な細胞は傷つけずにがん細胞だけを殺すことを期待して開発され、現在でも新規の分子標的薬の研究が続いています。
代表的な分子標的薬をいくつかご紹介します。

ハーセプチン(一般名:トラスツズマブ)

乳がんや胃がんに用いられる分子標的薬で、HER2(ヒト上皮増殖因子受容体2型)という分子を標的とする抗体です。抗体とは、標的とする部分に結合するタンパク質であり、免疫細胞の目印となります。免疫細胞は、抗体を手がかりにそれと結合しているがん細胞を見つけ、攻撃して死滅させます。

イレッサ(一般名:ゲフェニチブ)

非小細胞肺がんに用いられる分子標的薬で、EGFRチロシンキナーゼという分子を標的とする細胞内シグナル伝達阻害薬です。チロシンキナーゼは細胞の分化や増殖に関わるシグナルを伝達する酵素であり、これががん細胞表面に存在する受容体と結合することで、細胞の分化や増殖が行われます。イレッサはこのチロシンキナーゼ受容体に結合することで、本来結合するはずのチロシンキナーゼが結合できなくなり、細胞の増殖を止めて死滅させます。

このように特異的に作用するため、一見すると苦痛なく治療が可能に思えますが、しかし薬と副作用は切っても切り離せない関係にあります。

細胞毒性抗がん剤に一般的な副作用である骨髄抑制や吐き気・嘔吐、脱毛などの副作用が減った代わりに、間質性肺炎や消化管穿孔、インヒュージョンリアクション(過敏反応)などそれぞれに特徴的かつ重篤な副作用が生じる可能性があります。

もう1つ重要な点として、分子標的薬はその標的となる分子がある場合でなければ効果がないということです。

例えば、同じ乳がんであっても、HER2タンパクが過剰に発現しているものもあれば、他の増殖に関わるタンパクが過剰発現しているものもあります。

イレッサは複数存在するチロシンキナーゼの中でも、EGFRの遺伝子変異があるものでなければ効果がありません。同じ乳がん、同じ肺がんであっても、そのがんのささいな変異があるかどうかによって、効く場合もあれば効かない場合もあるということを知っておきましょう。

今回は、6種類の細胞毒性抗がん剤と分子標的薬についてご紹介しました。一言で抗がん剤と言っても、その作用機序や副作用はさまざまです。治療の際にはそれぞれのメリットやデメリット、あるいは効果の有無を十分理解した上で、治療法を選択することが大切です。

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